696キキキキ

696クロウサが綴る 696の世界

第 26 ぱさいさん

『久しぶりじゃな ジャミラっち。 アントニオが時々 寂しそうに星を見上げておるのを見てたから… もちろん、そんなことはお前さんも知っておるじゃろうが 連れてきたよ。』

アントニオは親友の気遣いと、ミカエルのレスポンスに強い恩を感じた。それは、決して簡単な寄り道などではなかった。今でも、多くのテロリストや政府軍などの攻撃が頻発する世界一の危険地帯だからだ。

 

 

カワの、アントニオとジャミラに対する友情に何とか寄り添いたいミカエルは、光栄にもアントニオの感謝を得て墓の有った辺りを掘り起こし、ジャミラの棺をみつけ、ンギャリアの森の奥に埋葬した。

5人は、森の美しい草花でジャミラの墓を飾った。

人目に付かないその高台は、ンギャリアの素晴らしい風景が見渡せる、陽の昇る場所だった。

 

朝が来た。 皆で 朝陽を浴びた。

 

 

 

空港へ戻る車中では、徹夜したにもかかわらず元気な老人達と娘達の会話が弾んでいた。

『なぁ 真弥さんソルルさんよ、お前さん達は何故成仏しておらんのじゃ?』

「アハハ! 私達はまだ若過ぎるし、コッチに来て間もないから仏様…かどうか分からないけれど、そんな偉い人には成れないのよ~」

「はい、ソルルの言う通り、親より早く死んじゃったので 色々とお仕事をしなければならないのです。とはいえ、とても素敵なお仕事ですからこうして存在の無い存在を楽しんでいるのです。」

『ふむ。。こんなことを訊いてはいかんのかもしれんが、お前さん達は その…』

ジャミラさんですね。 お会いしたことはありません」

「でも、素晴らしい方だというのは知っています。知っているというより、分かるんです。」

「天国と地獄…とは少しイメージが違うんだけど、ざっくり言っちゃうと、コッチにも素敵な世界と敵だらけの世界があって、素敵な世界にも…何て言えばいいのかなぁ」

「そうね、ジャミラさんは とてもとてもとても優しい人だったから、いえ 今でもそうでしょうけれど、もっともっと大切なお仕事をされる場所に居るってイメージです」

『そうか… 有り難うお嬢さん達』

『真弥さんもソルルさんも 直ぐにその場所に行きなさるじゃろうなぁ』

「イエーイ! そうなれる様にがんばりまーす」

「こちらこそありがとうございます、ジャミラさんにお会い出来たら嬉しいなぁ」

『わしらもそこにゆけるかのう』

『もし 行けんにしても、ジャミラっちは会いに来てくれるだろうよ』

「わー 大歓迎です!」

「コラ!ソルル、まだまだこちらに来てもらってはいけないでしょ!」

「わっ そうでしたごめんなさーい」

 

 

運転手のミカエルは、4人の会話を心地よく聞きながら回想する。

 

[今回の旅は、全くではないにしろ ほぼ無計画な、いわば実験遊びの様な試みだった。

ラッキーさんもジャミールさんも、人間という魑魅魍魎を束ね、強靭な意志と強力な思想と百戦錬磨の経験を持つ巨人。

私がこうして動き始める前から、彼等は影のエージェントに私を見張らせていた。

当然、動き出した途端に、完全な追跡を始めた。

私の突拍子もない ”作戦” ともいえない挙動にも、さすがの即応で反撃に出た。

にも関わらず、私からの連絡とお願いを何食わぬ顔で受け入れる辺り、老獪にも思える…のだが、正直、私は 二人の巨人が苦々しい肚の内を隠して、平静を装う姿を想像してしまい…

( ̄m ̄〃)ぷぷっ! っと 笑った。

 

私の作戦。

資産では私の方に分があるにせよ、金の力や政治の力を使えばすぐさまアチラの 不毛な舞台 に上がる事になってしまうだろう。

デラバンさん一家の逃避行の噂から彼を訪ね、アントニオさんとカワさんに協力を願った。

今回の作戦を立てる上でも、お二人の素敵なご老人に教えを戴いた。

アチラの舞台に上がらず、味方になってもらう方法を訊いた。

『目には麺を』とブラザーアントニオは、私の想いを仰(シニカ)るのだった。

その言葉に習って「武力権力には究極の安穏」を混ぜてみて起こる化学変化の実験を見たいと思った。

 

前回のチラシ作戦も 皆が命がけの実験だったが、不肖私も皆さんとの大脱出を楽しむことが出来た。

 

そして、今回 難民ブラザースのお二人と天国シスターズのお二人に協力して戴き、

結果、

いとも簡単に、強力な敵が、2つ減った。

そして、この奇跡の様なスムーズな展開には、敵だった二人の巨人の凄まじい覚悟がある事を忘れてはならない。]

 

世界の暴力装置を牛耳るツートップに180度の方向転換を決心させた、これまでの彼らのあらゆる積み重ねの結論を、無駄にしてはならないと、その重みを噛み締めるミカエル。4人も又、同じ想いだった。

 

 

 

 

帰りの機内では全員が着陸するまで就眠していた。

老人二人には少々キツイ24時間であったし、

鍛えた身体でも限界を超えるほど、ミカエルも危険な荒れ地に向かっていたからだった。

それでも 搭乗すると、5人で乾杯して少しだけ話した。

『ンギャリアの星はきれいじゃったな』とか

「アントニオさん、今はスチュワーデスとは言わず CA  と呼ぶんですよ」

『しぇ~!』とか。

「じゃー わたしたちシスターズがそのシ~エ~になっちゃいます!!」とか…。

 

 

[皆さん お疲れ様でした。 …おやすみなさい。]

 

 

 

 

数週間後、ミカエルは 再度 それぞれの巨人と面会してきた。

巨人達からは、何かを装う雰囲気が消え、

何故か二人とも ヘタなジョークの好きな、くだけたオジサンになっていた。

もちろん、眼光の鋭さは まるで衰えてなかったが。

 

 

もちろん、両名が軍事から手を引くことは無かった。

ミカエルもそれを望んだわけではない。

武力思想も宗教と同じ様に、根本を間違えなければ直ぐには暴力にならないからだ。

しかし、兵器開発業に偏り、むやみな暴力を生みだしてきた今までの資本主義の構造を変えてゆく意義には気づき、その挑戦が楽しみになってきた様だった。

 

彼等は、驚くことに 「ライバル達に連絡を取ろうと思う」と相談してくれた。

ミカエルは 大いに賛成し、全てお任せ致します と応えた。

その任を受けて、かつての軍事的巨人たちは、難民ブラザースの方々同様に、直接会って話す方法をとる事に決めたらしい。

「昨日の敵は 今日の友。ですね、マイブラザース」。

ミカエルは新しい仲間をそう言って迎え、もう一度、真弥とソルルに仕事をお願いする事にした。

 

 

 

さて、

 

天国シスターズは 何 をするのか。

いや 何 をしたのか…

 

 

あの日、シスターズの二人は、ミカエルが用意したテーブルでの老人たちとの会談の最中、全力で巨人達を守っていたのだった。

 

彼等が少年の頃から負ってきた心の傷や、 

彼等がさんざん放った様々な暴力の因子や、 

そこから派生した敵なる死霊生霊と、意識下の自己嫌悪からの際限なき猛烈な攻撃。

その怨念の復讐ループから、彼等を護る 盾 になり、

アントニオとカワから発する闊達でしなやかな穏やかさを妨げない様、

彼等巨人に伝える 優しい空気 になったのだった。

 

死の商人達は、ただただ 己の穏やかさ に浸れたのだ。

 

 

 

[ラッキーさんも ジャミールさんも 別れ際 私にこう言った。

「来る者にココアを 去る者に感謝を」と。]

 

 

 

 

 

あーるあんさん