696キキキキ

696クロウサが綴る 696の世界

第 27 ベダンクト

バカは今朝も走っている 明日?そげなもんは知らん とでも言わんばかり。

知らなくても走ればいい 走らなくても、知ったフリのままでも 明日は来る。

 

そうして、走り続ければ、何処かには辿り着ける。

 

 

 

オランダ スキポール空港

 

『お、 走りよー 走りよー』

 

アレックスは、日本から到着したあるばを迎えに来ていた。

 

「ごめんなさい!アレックスさんですよね」

『あるばさん 飛行機ん遅延に謝る事げななかばい… 荷物はそれだけと?』

「はい 身軽にしてた方がいいかなって思って 小物がゴチャゴチャと重くなっちゃったんですけどね」

『ばってん そん身軽なストリートファッションにハイヒールげな なかなかカッコ良かやなぁ』

「出がけに、出来心で履いて…大失敗です 海外旅行に興奮しちゃって」

『でも、そげな興奮ば大事やけん ばってんスニーカー買いに行かんばやなぁ』

「え~っと…」

『あぁ 行かんばやなぁっていうんは、行きましょうねっていうことやけん。』

 

 

アルベリヒに聞いて何となく想像してた相手の容姿と全く違っていた。

お互いに、そう思った。

 

 

『あるばさん、先ずコレば言うとく。 俺(おい)は もう長くなかとばい』

「えっ?」

対面して2分足らず まだ空港から出てもいない。

 

『初対面で会うて出し抜けに言うてしまったが、アルベリヒから紹介してもろうた方に、失礼んなかごとしときたかけん、わだかまらない様にさせて戴いた。俺ん命は長うなか。』

「へッ? はッ⁇ なッ…ちょっチョット急展開過ぎ… じょ 冗談では、ないんですよね…。」

 

アレックスは 姿勢を正し、きれいに礼をして

 『はい。すまん。 そげんやけん、ボクに惚れたりせんでくれんね ハッハハ』

 

「あッ そ~ えーっ… 確かに、 いや何というか、アレックスさんイケメンだけど…」

『ハハ そうやろ イケメンやろ ありがとうございます』

 

『・・・・・』

 

「え~っと わたしの顔に何か…?(もしや ほっぺにお弁当とか 機内食の…)

 

『いえいえ 美人さんやねーて思うとっただけばい。だけん、俺とあるばさんはちょーお似合いん美男美女カップルになれるかもばってん、ちょー残念ばい あはははは』

 

 あるばは、初対面の緊張に少し構えていた気持ちが、怒涛の展開とアレックスの軽口のお陰で和らいだ気がした。

(なんだこの旅の始まりは…。 イキナリのイケメンの唐突な宣告?告白?白状?。。一目ぼれする間も与えない薄情なジョーク…。 でも 確かに、良い人っぽいな… というか、面白いヤツ。)

 

 

 

タクシーでの道中 車窓の景色を軽快にガイドしてくれるアレックス。

40分でユトレヒトの街に着いた。

 

彼の家には 何も無かった。

 

いや、

テーブルや食器なんかはもちろんあるけど 生活感が 無かった。

 

 

20歳までの命 と 宣告されたのは16歳の時だった

『長くても5年っていう意味やったんですよ』とアレックスが語り始めた。

宣告されて… 

数日間は朝が来るたびに泣いていた

数ヶ月は虚ろに過ぎる時間を漂っていた

好きな事も 面倒な事も 何もかもやめて

少しずつ色んな事を諦められる様になった

何故か 無意識的に映画だけは観続けていた 全ての思考を遮断するように観ていた。

予告編を見る時は、公開日がとても遠く感じた。

観たい作品がある時は『この映画が始まるまでは生かしてください』と神頼みしていた。

何故か、映画への興味だけは失っていなかった。

 

 

 

ハタチを過ぎ 少しやつれては見えるだろうが、案外身体は平気だった。

就いていた職も、目の前の成果と能力的成長を無神経に喜び楽しめる様になっていた。

死が迫っているのに、『慣れってのは恐ろしいな』とふと思う自分が滑稽だった。

でも、

恋愛だけは、拒否するしかなかった。 素敵な人に会うたびに、全力で心を閉ざした。

 

 

好みの人を見ても何も感じなくなった頃、変な夢を見始めた 幻覚かもしれない。

 

黒いウサギと 白いクマと 人形と 恐竜。。

彼等は いつもアレックスに愚痴っていた

(死ぬのは誰でもそうだけど 辛いのも誰でもそうだけど みんな誰でも普通だけど 自分は自分で 他の誰でもないぜアレックス。 とか何とか…)

 

何度目かの夢の最中、アレックスは4人に声を掛けた。

『何ば言いよっとね君ら? 俺に何ば伝えたかとや? 辛い? 普通? もうすぐ死ぬ俺で良かなら あんたらん力になるばい』

黒いウサギがコクリと頷いた。

アレックスの周りに何人かの何者かがフワリと降りてきて、

(その後)に ついて教えてくれた。死後というやつか、C6gwというものの事も。

そして、残り僅かな寿命についても。

その予告は、既知の彼にとって最早ショックにはならなかった。

 

 

 

アレックスの語りの途中 あるばは申し訳ない気持ちで訊ねた。

「c6gw? それは何ですか?」

『なん っちゅーてポンとひとつ当てはまるっちゅーかちゃんと伝わる言葉は無かとやけど…』

「アレックスさんのイメージする言葉でならどうですか?」

『そうやね、盾 とか 心構え とか 逃げ道 とか ズル休み とか 正直とか…』

 

「わぁ…。」

あるば は、何かを感じつつ アレックスの目を見つめた。

 

 

黒いウサギはこう言った

(生きている人間は様々な場所でそれぞれの生き方をしていて、死んでいる人間にも個々の魂が有るんです。この場合の 有る は、次元を超えた話ですがね。

他人を殺した者も 諸般な事情に基づき 生死に関わらずその居場所が定まります。

親より先に亡くなった者には 死因に寄らず 存在の無い存在としての仕事があります。

寿命を生きた者も 自死した者も 他殺した者も、

死んだその瞬間から引き続く 己 という経験と記憶の上での冒険が始まるのです。

生きている というのはまさに、その永遠に続く冒険の練習期間なのです。

冒険 という言葉に惑わされてはダメですよ、コレは私クロウサのイメージですからね。

遊び という言葉に言い換えても良いし 生活 と呼んでもいいかな。

死んでるのに生活もないですが、生死の概念自体が取るに足らないものなのですよ。

だからといって、練習期間が短いと 何でも、色々面白くならないでしょ?

ダラダラ長く練習すれば良いわけでもないけれど、時間は素晴らしい資源ですし、

時空 という、ひとつの次元を持つほどに大いなる資産とも言えます。

しかし、ほとんどの人間は何故か、ハシタ金で自分の時間を売ってしまいますが…。)

 

 

 

未だ戸惑っていて、感覚を纏められず自分を情けなく思うあるば。

「すみません。 わたし頭悪くて、イマイチ脈略が掴めないのですが…。」

『いやいや こん話だけで掴める人おったらスゲーけん、

黒かウサギは、まぁクロウサっていう名前らしいばってん、たぶんこう言いたかったと思うんよね。

(今でん、死んだ後も、楽しくやりたかなら やるることあるばい!)げな感じやなかかなって…。』

 

 

アレックスは何度もそんな夢を見続けた。

夢を重ねるにつれ、 

白いクマも

痩せた人形も

緑の怪獣も

それぞれの言い回しで c6gwについての説明をしてくれた。

フワリと舞い降りた知らない人々も不思議に、警戒感や違和感を感じさせずに、彼らの事も含め、色々な話を聞かせてくれた。

 

アレックスは自分なりに夢での会話を理解し納得していった。

結果、 

ずっと希望を見い出せない毎日を過ごしてきたお陰で身についた とも言える彼の能力を役立てることにした。

(突っ走る。 どんな時も。

欲望や 意欲の ほんの少し先にあって、

諦めや 自己嫌悪に似た絶望さえ、軽く追い越し 置き去りに出来る様な、

盾 でも 逃げ道でもない 希望よりもリアルな、俺のイメージ。

 

何にも叶わず、

明日が真っ暗闇だとしても まぁ 明日なんか見える人いないけれど、

ただ走る。

凡人が がむしゃらに走るイメージ。

喜劇でよくある、バカが走って壁にぶち当たって 観客が爆笑するあの感じ かな。)

 

『で、バカが走るか…よし気に入ったばい って思ったとばい…。 ばってん…、

いや違う…。 俺(おい)が、…そうか! 俺が 俺(オレ)としてやれば良いのか…。』

 

『とはいえ、実際何をすれば良いのか、何処へ走り出せば良いのかサッパリ分からないんですけどね。走り出したとしても、何処へ向かえば好いのか…。

だからこうして、あなたに会って 話をしているんです。』

 

 

 

あるばも、何かを理解し始め、ようやく様々な言葉が見えてきて 自分の感覚が落ち着いているのに気づいた。

 

「そうなんですね… 色々、話してくださって有り難うございました。

わたしも、何故今ここに居るのかなんて考えるのは止めにしました。

わたしはもう少し長くこちらの世界に居る予定ですから、わたしが わたしとしての何かを楽しめる様に… アレックスさん、あなたの楽しそうなお仕事を手伝わせてください。

いや もぅ決めましたからね。ってことで、お話しの続きを聴かせてください」

 

 

 

 

 

ダンキェヴェル