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696クロウサが綴る 696の世界

第 34 ベゲーグヌン

アルベリヒもこの街に居た。

 

偶然、居た。

 

 

彼は、職人を志し、己を磨く 長い遠征を経て、

その道中に巡る思考を、平凡な日々の経験に結び付ける旅に移り、

色んな場所であらゆるものに触れ、何気なさにも 何かを感じ、

自分を見い出しては見失い、また気づきを見つける毎日を過ごした。

他人を考え、出会い 別れ、一喜一憂を繰り返し、あれこれ 腑に落ちる事も増えた。

 

 

寂しさはあるけれど、馴染めない輪に加わる苦痛よりは孤独を選んでしまう日々。

長いこと、一人でいるしかなかった。誰かといても、独りだった。

 

それでも、これまでの毎日は 多くの示唆を与えてくれた。

自分の愚かさはもとより、社会の 世界の 宇宙の 不安定さと、摂理を仄めかした。

 

 

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一般的に言えば、僕の性格は(付き合いにくい)のだろう。

「アルベリヒ、君は 何を考えているのか分からない」と心外な意見も何度か…。

思想 情緒、交友 気遣い、色彩や造形や味覚や聞く音楽などの単なる『好み』も、変(ダサい)らしい。

 

 

母国での修行の旅を終え、浮かんだ多くの疑問を晴らす放浪に出て、様々な国を巡っていた頃、

いつもの様に、立ち寄った公園で、自作の変な歌を歌っていると声を掛けられた。 

(オランダで友人になった)アレックスに勝るとも劣らない男前だな と、ぼんやり思った。

背は高いが腰の低い、丁寧な話し方をする男だった。

因みに僕は背も低いし腰も低い。話し方は… ぶっきら棒 らしい。

 

その彼は、「ハロー イッヒ ビン ミヒャエル」と名乗った。

僕がドイツ語で歌っていたからだろう。

自作の歌を歌う理由は、自ら作って歌うという行為が、僕の 縺れそうになる曖昧な意識をシンプルにしてくれるからだ。

だから 母国語。要は、僕には、耳にする人へのサービス精神が欠けているという事だ。

 

 

そのミヒャエルと気を失うまで話した。

 

なんて、大袈裟な表現をしたが、話しがとても面白くて、公園から食堂、バーから港のベンチ、そして気付けばまた公園で…目が覚めた。こんなに会話を楽しんだのは、初めてだろう。

 

 

ミヒャエルは仕事をくれた。

オランダで仲良くなったアレックスの話しをすると、深く考え込んだ後、「私の仕事を手伝ってもらえませんか?」と言った。

それで、日本に来た。

 

 

日本では、あるば という女の子と知り合った。

彼女も、とても珍しく意気投合できる人だった。

僕は、遂に、アレックスの力になってくれる人を見つけた気がしたので、彼女に彼を紹介した。

その生き様や、心根に共感した友 アレックス の力になりたいと思っていたのだけれど、どうしたらいいのかさっぱり分からず、毎日数回思い出しては う~んと唸るだけの情けない日々だったのだ。

 

あるばも、是非彼に会いたいと言った。

 

彼女は、ずっと平凡に生きて来たらしい。

そして、僕が話した(もぅ平凡に生きられない平凡な男アレックス)の生き様に興味を持った。もっとも、何もかもを話したわけではないけれど…。

 

きっと、彼女は 僕より上手く、彼の計画のお手伝いをしてくれるだろう。

 

 

 

孤独な旅で アレックスに会い ミヒャエルに会い あるばに会って、道を見つけた。

昔、大工を目指して始めた厳しい修行の途中に行き当たり、

様々な経験と思考から生まれた疑念… 払っても払っても 消えなかった疑いの何か。

その、疑いの旅を終えることにした。

 

 

 

以前 大工の修行中、物理の本も読んでみた事がある。

もちろん専門的なものではなく、素人にも分かりやすい記述で、学者達の挑戦を通して見てみると、自分の日常世界に感じる多くの(不思議や当たり前)の成り立ちの訳を紐解ける様な気がしたものだった。(魂や引力…みたいな事)の存在理由だ。

材木の加工や組み立てよりも、そちらに惹きつけられていった。

  

その記憶が、あの3人(アレックス・ミヒャエル・あるば)との出会いで蘇った。

 

「変だなぁ 面白いなぁ」と思っていた事が ストンと腑に落ちたのだ。

 

例えば、

歴史に名を刻む学者達の(自ら挑み、破れた事で、その後の逆転を成し得た)という、よく聞く前進する為に必要だった、失敗のエピソード。

理論物理学は、そのプロセスが(他の挑戦より)僕には想像し易かった。

複雑難解に見えるが、理論という至極シンプルな証明のみでの攻防だからだ。

 

功績の直前まで、新しい仮説は それまであった理論を汚す裏切り者の様に扱われながらも、証明が叶えばその直後からは(標準)という『当たり前』の理論になるのだ。

手のひらを反す仮説の流行は、大衆の根拠なき移り気となんら変わらない。

 

あの3人は、手のひらで動いてはいない。

 

 

技術 知識 考察 構築 進歩 継続 英断

これらの為すものに 意味を見い出そうとして、僕は 挫け 破れた。

けれど、今も逆転は出来ていない。

 

あの3人は、意味など求めていない。

 

 

 

そういえば、こんな話も読んだ…。

 

或る究極の謎を追及していた天才科学者は世界大戦の最中、連合軍兵器開発の責任者になり、核爆弾を開発し核の父と呼ばれた。

 

その核は日本に落とされた。

 

その壮絶極まる惨劇の事実を目の当たりにして 激しく悔いた彼は、戦後の自由な身にもかかわらず、人生を掛けていた研究を止めてしまった。

 

戦後、彼の元に 日本の科学者から手紙が届いた。

「実は、あなたが追っていた謎を 戦争中に解明していたのだが…」という。

その後、彼(核の父)の導きで理論は証明され、日本人科学者はノーベル賞を受賞した。

敵国を排除しようとした天才が解けなかった謎を解いたのは、

その天才が作った兵器で敗戦した国の学者…。

皮肉にも、用いたのは(繰り込みの手法)という計算方法だった。

それは、排除されようとしていたデータを繰り込む事で導き出された数式なのだ。

核の父は、学問を愛し その力で社会に貢献しようとし 敵を排除した、 優れて愚かで純粋な『人間』だったのだろう。

 

 

物理の見せる法則は、知れば知るほど人間社会の謎にも当てはまるから面白い。

自然の在り方

宇宙の成り立ち

そうして考えてみて、ふとよぎるものがあった。

電子 ニュートリノ クオーク ヒッグス などがこの世を作る素の粒子ならば、

僕らが持つ『思い遣り』という意識もまた、素粒子を安定させ構成させる為に必要な質量という重さなのではないか…。なんていうファンタジーを思い描くのも楽しい。

 

 

大工に成れず、何者にも成れていない自称音楽家がこんな妄言をするから、友達など変人ばかりなはずだ。

 

 

 

さて、この街に来た。

僕が、僕であったが故の偶然がもたらした 今。

何がどうあれ、下手な歌を垂れ流すよりは役に立つ事ができるかもしれない。

ここに居るこの偶然も、理論物理学なら数式化出来るのだろうか。

 

弦理論 膜宇宙 多元宇宙… 11次元 26次元 いや 無数の次元が…。

僕達が意識できるのは、空間の3次元と時間を合わせた4次元まで。

しかし、それ以外の次元が在るというのが物理学では常識になっていて、今では何十もの次元が理論上当たり前の存在になっているそうだ。

 

概念を突き詰め 概念を突き抜け 対称性を追求し 多様性に辿り着く証明

 

問題を解いた瞬間に現れる新たな問題 答えを求めれば問いが生まれる背理 

 

思い込みや決めつけが阻んできた進歩 ゼロの闇が生んだ逆転の発見

 

CERNというたった6000億円の装置が見せた 新しい素粒子 宇宙の素

 

証明がもたらすものと非証明がもたらすものは等しく宇宙を構成している

 

 

…だったら 異次元が救うものもあるだろう。。

 

 

 

僕がこんな”勘”物理学を思考するのはただの遊びに過ぎないけれど、

ミヒャエルが知り、アレックスが挑もうとしている事実が、僕に異次元を想像させてくれた。

僕の勘が、その異なる存在を肯定していた。

まぁ、見えなくても「意識から排除すべきではない」程度の感覚だけれど。

物理的に、「何かを犠牲にするのでないなら その努めを楽しもう」位の認識だけど。

 

まぁ、ミヒャエルは気前が良くて僕の生活を助けてくれるしさ。

 

 

 

天国シスターズ。

 

異次元の天使たち。

アレックス…またモテるんだろうな。今度は頑なに冷たい男を演じる必要も無いし。  

 

 

 

この街で行われた大会も無事終った。

風の強い港町に集まったVIPさん達は 皆、静かに解散していった。

 

実際、天使達自作の歌は 大役を果たしたという。 

 

僕の下手な歌も ミヒャエルと その後の出会いにはアシストしたけど、天使たちのサービス精神はさぞかし素晴らしかったのだろう。。。

 

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アルベリヒは 会場を閉じ、次なる偶然の場所へ、

 

独りで。 

 

 

 

 

  

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